鮮緑の城壁(イタドリを伐採する話)
イタドリの新芽をひとつ見つけたら、地中にはその10倍の芽が潜んでいる。
新芽の数を数えて後ろを振り返ったら、もうひとつ増えている気がする。
赤や紫の毒々しい色の新芽は摘んでもすぐ生えて来るし、摘み残した芽はあっという間にニョキニョキ伸びます。伸びたイタドリをよく研いだナイフで薙ぎ払うと、ノコノコを踏んづけたときのように小気味よくポコッと鳴る。茎の中が空洞だからだろうか。たのしい。ポコポコ切っては崖下に放り投げる。崖の下には枯れたイタドリが雪の重みでぺしゃんこに潰れて積み重なっています。去年の分だ。たぶんその下には一昨年の分。そこはきっと虫達の恰好の住処になっているんだろうな。
イタドリの節の中にはたまにイタドリムシと呼ばれる、コウモリガの幼虫がいる。
「節を割ると中からかわいらしいコウモリガの赤ちゃんが…。」
なんてまるで竹取物語のようですね。ていうかこれだとイタドリ物語ですね。
コウモリガの成虫は餌を摂らないらしい。もの思いに耽っているわけではないが、ちょっとかぐや姫っぽくないですか?月夜に羽ばたいて行ったりすると尚更よくないですか??
……あの地味なルックスだと無理あるかな。
イタドリムシは川魚を狙う釣り人に人気があり、けっこういい値段で売れるようです。1匹100円だとか。いい値段の基準は人それぞれ。まあ釣り餌として高価なのはわかるが。
とはいえいったいどこで売ればいいんだろう?国道沿いでメロンとかトウキビとか売ってるあの感じで、しれっと屋台を組めばいいのかな?「爆釣!イタドリムシ」とかのぼり立てて。
「イタドリムシ」で検索すると、トップに来るのは「イタドリムシ食べました」の記事。釣り餌情報より上って……。他にも食べた系の記事がちらほら。人の食への好奇心というのは果てしないですねー。「ざざむし。」や「野食ハンマープライス」など「いろいろ食べてみる系」のブログを読んでいると、毒がなければなんでも食えるのかなと思います。気持ちの問題なのかなー。
イタドリ自体も若いうちは食えるらしい。ウソだと思うならクックパッドで見てみてください。めくるめくイタドリレシピの数々。
でもあんまり食べ過ぎると体によくないらしいよ。シュウ酸がどうとかってグーグル先生が。
イタドリと格闘していると星新一さんの「繁栄の花」という話を思い出します。(思いがけず本の話に漕ぎ着けることができて驚いています)
宇宙人から贈られた花をこっそり増やしてしてしまい……。やめた。ショートショートのあらすじなんて無粋な真似はよそう。「宇宙のあいさつ」に収録されていますよ。
福島に住んでいる友達から、イタドリ対策としてヤギを飼うという話を聞いたことがあります。刈っても刈っても生えてくるので、ヤギに食わせるんだって。レンタルヤギのサービスがあるそうな。一瞬なにそれうらやましい…!ってなったけど、よく考えたらイタドリをウンコに変換する装置なんかぜんぜんうらやましくなかったわ。別にヤギ好きじゃねえし。
5、6羽ぐらいのウサギの群れが協力してイタドリを殲滅する!とかだったらかわいいのに。ウンコの処理も進んでやるのに。
例年、春から初夏にかけてはイタドリを刈るのにやっきになっているのですが、暑くなってくるともうまったく勝てる気がしないくらいの勢いで茂り出すので、「緑のカーテンもいいかもね…」という気持ちになり伐採を完全に諦めるのがお決まりのパターン。実際、真夏のイタドリは「緑のカーテン」などという生ぬるいレベルではなく、もはや「鮮緑の城壁」と呼んでも差し支えないくらい強固な仕上がりなので、さながらイタドリの軍門に下ったかのよう。家ごと囚われてしまうのだ。
灯油タンクがイタドリに食われそうだよ。