ジャガーノート

本や音楽の話を書いていこうと思います。

ロシアのバンド、レニングラードのこと

ロシアンロックコーナーにデカデカとポップが掲げられているのを想像しながら、地下街を足早に歩きタワーレコードを目指す。YouTubeiTunesで曲名とアルバムタイトルの下調べを済ませ、準備は万全であった。20年の歴史を誇るバンドなのでさすがに全て揃っているとは思ってなかったけど、まさか1枚もないとはな。

 

そもそもロシアンロックの棚なんてなかったしHMVにもAmazonにも置いてないしかつて夏のロックフェスで日本中の音楽ファンに衝撃を与えたことがあるのではないかというのも個人の妄想に過ぎなかったし英語版ウィキペディアは長らく更新されていないしロシア語読めないし日本語で検索しても彼らの情報はあまり出てこない。

そもそもロシアの音楽事情は、旧ソ連の国営レーベルや文化的ゆる鎖国時代など分からないことだらけだ。隣りの国なのにね。

 

その分からなさゆえ謎が謎を呼び、掘っても掘っても全容が見えた気がしないが、ここらで一度メモがてら纏めてみます。

 

 

 

Ленинград(英:Leningrad)(以下レニングラード

ロシア第二の都市の旧名を冠したこのバンドはその名の通りサンクトペテルブルク出身で1997年結成、2008年解散、のち2010年に早々と再集結して今に至る。

管楽器を含む14人からなる大編成と裏打ちを基調としたリズム、ロシア民謡的なアッチェレランド(テンポアップ)の多用が音楽的な特徴だが、それに留まらずヒップホップを取り入れたりもするのでジャンル分けが難しい。90年代に我々はミクスチャーという便利な言葉を得たが、あれはあれで「ヘヴィリフとラップ」という特定のイメージが染み付いてしまったので、レニングラードの音楽を説明するのには不向きだろう。もともとロシア・東欧の民謡にはラップの要素も持つものもあり、彼らの用いるラップスタイルもアメリカからの輸入だけではないかも知れない。

 

 

 例えば『Кольщик』。

f:id:classic108fuzz:20181027021732p:image

https://youtu.be/ktiONWfSL48

 

全編一人称視点のアクション映画『ハード・コア』のイリヤ・ナイシュラー監督が手掛けたMV。精細な逆再生で見せるサーカスの惨劇が不思議と曲のカタルシスを高める。中盤で入る短いラップは明らかにアメリカのスタイルではない。聞き慣れない言葉の響きが心地いい。

 

 

 

さて、前述の通りレニングラードはメンバーが多い上に入れ替わりもそれなりにあり、関わった人数はゆうに30人は超えるだろうと思われるのだが(さすがに歴代メンバーの数まで数えてない)、特に注目したい人物を紹介してみる。

 

まずはメインボーカル、セルゲイ・シュヌルフ。通称シュナー。

酔いどれ詩人トム・ウェイツを彷彿とさせる強烈なしゃがれ声が特徴。セルゲイ自身、レニングラードの音楽をウォッカになぞらえているのが面白い。あの声は酒灼けのせいなのかも知れない。ボーカルだけでなくラップもこなし、バックに回ったときの煽り方も半端ではない。ライブ中、彼の「давай!(ダヴァイ!)」の連呼を何度聞いたことか。

「давай」の意味は検索すればいろいろ出て来る。促し、けしかけ、扇動なんかのニュアンスがあるが、どうやら一言でぴたりと当てはまる日本語はない。「ほら!」とか「さあ!」じゃないんだよ。「давай」は「давай」でしかない。考えるな感じるんだ的な。

 

最近はタンクトップにハーフパンツが基本スタイル。部屋着かよって感じで正直ぱっと見は理解しにくいファッションなんだけど、メンバー全員ファッションセンスが難しめなのですぐに見慣れる。いつか着ていた「ЭТО НЕ Я(それは私ではない)」ロゴのタンクトップなぞ何か強いメッセージを秘めているのでは、といろいろ探ってみたりもしたが、時折ネコ柄のタンクトップなんかも登場するので深く考えるのはやめた。

使用ギターは一貫してテレキャスタータイプ。現在はロシア国旗モチーフのものがメイン。テレキャスター使いには珍しくフロントピックアップしか使わないため、セレクタースイッチはフロント側に固定している。アンプはツインリバーブ。多彩なピッキングスタイルを操り、フラットピックだけでなく指弾きもよく使う。大編成のギターボーカルながら、ギターをしっかりと大きく鳴らすのも好感度が高い。完全にリズムギターの人。

 

 セルゲイボーカルのおすすめ曲は『WWW』。ライブでは客席を一瞬で沸騰させる力がある。対してCDでは酔っ払いのデモテープかと思うレベルのチープさ。けれど2回も聴けば慣れる。酔っ払いの歌なのだからこれはこれで正しいのだ。

 

MVだとゲリラライブ風のこれ。『Фиаско』。

f:id:classic108fuzz:20181027022439p:image

https://youtu.be/Y748pXFfy_w

サビで忙しなく駆け回るモノシンセの8bit的なサウンドもポイント。シャレの効いた締めが最高なので、ぜひ終わりまでご覧いただきたい。

 

 

 

2人目は黒髪の女性ボーカル、フロリーダ。スモーキーかつなめらかな歌声の持ち主。

 

『ЦЫПЛЁНОК』(たぶんこれが曲名だと思う)

f:id:classic108fuzz:20181027114551p:image

https://youtu.be/mEcI0KrzMWY

このライブは完璧にコントロールされたシャウトとミュージカルのように芝居がかったダンスが見どころ。ロシアのちびっ子達も大はしゃぎで踊ってる。ときには放送禁止用語抜きで、子供も楽しめる音楽が出来るのもレニングラードのいいところ。

 

フロリーダはボーカリストとしてはかなり器用で、酔っ払いスタイルのラップを披露してみせた『Ч. П. Х.』は出色の出来。

 

f:id:classic108fuzz:20181027123255j:image

https://youtu.be/75JjflWKs98

 

 

このMVは目の座った様子や垂れた前髪を吹き上げる仕草、ラストに膝がカクッと落ちる感じがとてもリアル。いやリアルっていうか多分ほんとに酒飲んで撮ってる。歌詞もほとんど酒のことばかり。レニングラードの2017年ベストMVらしい。

 公式ページでは「レニングラードのスペードのクイーンにしてファタ・モルガナである。」と紹介されていてるフロリーダ。アーサー王伝説にも登場するファタ・モルガナを、女神・妖精・魔女のいずれと解釈するかでニュアンスが変わるけど、そのモルガナの捉えどころのないさまが彼女の変幻自在なイメージに合う。

 

 

他にも常にフードを被ったワウペダルマスターや、歌って踊れる巨漢の大太鼓、タトゥーだらけのトランペットなど、怪しくも魅力的な人物が大勢いるのだが、そろそろ2700文字を超えてしまいそうなのでひとまずここまで。いつか続きを書く。

 

 

宮澤 余市