ジャガーノート

本や音楽の話を書いていこうと思います。

ダチョウの卵と好奇心の部屋

ダチョウの卵を手に入れました。

母が「孫のために」と買いに行ったのですが、下の子も欲しがると思うから、ということで2個届いた。。

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ダチョウの卵1個で鶏卵20個分の量があると言われています。つまりダチョウの卵2個で、鶏卵40個分の量があるわけです。てことはこの写真1枚に鶏卵41個分の量があるんですよすごくないですか。

重さは1個1.5kgぐらい。この量はヤバい。

有精卵だから日持ちするよ、とダチョウ牧場のおじさんが言ってたけど、ナマモノなのでなる早で食い切りたいところです。週末に意を決して割りました。

めずらしいことなので、ちょっとその割り方などを記録に残そうと思います。

 

 

まずは流水で卵の表面を洗います。雑菌とかこわいので、仕上げに水の劇落ちくんで除菌する。

 

余談ですが、我が家は田舎ぐらしなので、水道が引かれていません。なので、水は地下水を使用しています。地下水生活が長いと、水道の塩素のにおいにとても敏感になります。洗濯物なんかも、水道水で洗ったものは洗剤の香りの奥に塩素のにおいを感じる。消毒されてるなーという涼やかな清潔感があって、好きなにおいです。ないものねだりなんだろうけど、蛇口をひねるだけで塩素入りの水が出てくるのはかなり便利だと思います。

加湿機も、地下水だと雑菌がわくので使えません。地下水にわざわざ塩素を足して使っているんだよ。。めんどくさいよ。

ついでに書くと、塩素のない地下水生活で肌や髪が健康になった!みたいなことはまったくありませんでした。もともと家族全員、肌が弱いのですが、ことさら改善もせず悪化もせず。塩素除去機能のついたシャワーヘッドとかもあるけど、うちは引っ越しても使わないかなー。水道水の残留塩素程度だったら肌には全然影響ない、というのが実感です。

 

さて、話を戻して。

 

まず、穴を開ける位置を決めます。スマホのLEDライトを卵に直付けすると、気室が透けて見えます。気室を上にして、卵を小さいボウルに固定します。

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各種得物を取り揃えまして、どうやって穴を開けようか検討。

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1.千枚通しを金槌で叩いて、卵に小さなキズを付ける。

2.ドリル。

の手順が楽かなー。

活躍したのは愛用のBosch IXO。以下の記事で紹介しています。

Bosch IXO バッテリードライバー - ジャガーノート

 

6mmのドリルを使いました。貫通するのにけっこう時間がかかります。

 

さて、穴が開いたらもう写真を撮っている余裕はありませんでした。以下、文字のみです。

中身を取り出すために大きめのボウルを用意します。大は小を兼ねます。家中でいちばんでかいボウルを使いましょう。脅すわけではありませんが、どんぶり程度の大きさだとあふれるかも。

卵の穴を下に向けて、曲がるストローを差し込み、息を思いっきり吹き込みます。空気が入っていく感じはありませんが、卵内部の気圧は高まっているはずです。そして圧を保ったままストローを素早く抜くと、穴から卵白がどろどろーっと流れ出てきます。ストローを抜く前に息を吹き込むのを止めてしまうと、生卵が勢いよくストローを逆流することになりますので、お気をつけください。

卵白が流れ出る様子をそばでみていた子供が「なんか鼻水みたいだねー」と言うので、食欲が失せるからやめろと伝えました。しばらくすると、またなにか思いついたらしく、「あ。そうだ。よだれみたいって言うのはどう?」って言い出した。どう?じゃねえよ。

 

大まかには卵白→卵黄の順に出てきます。なのでうまく取り分ければ、メレンゲとかも作れるんじゃないかな。

 

中身をきれいに取り出せたら、穴をもう少し拡張して内部を水洗いします。水を切って乾かしたら、卵の標本の完成!やったねー。

 

できたよーって子供に見せたら、卵に絵を描くんだと言っていました。

そうか。絵を描くのか。。もっと博物趣味のあるやつだと思っていたけど。ダチョウの絵を描くんだってさ。まあ子供らしくてかわいいね。

 

 

好奇心の部屋デロール (たくさんのふしぎ傑作集)

好奇心の部屋 デロール (たくさんのふしぎ傑作集)

パリにあるデロールというお店を紹介した本。デロールには博物館と見間違えるほどの、剥製や標本が大量に陳列、販売されています。地元の子供達が剥製をなでている写真が載っていて、動物園や博物館とは違う、こんなふうな動物との親しみ方もあるんだなーと感じました。店の雰囲気もとてもすてきです。

なぜ唐突にデロールの話を持ち出したかというと、この本、ノンブルのデザインがダチョウの卵なんです。

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「好奇心の部屋」っていいですね。うちにも作ろう。

 

うみねこ博物堂もいつか行ってみたい。

うみねこ博物堂

 

 

第2理科室を思い出すな。

 

 

貝の館(貝類専門博物館)

蘭越町にある貝類専門博物館『貝の館』に行きました。

北海道蘭越町貝の館 Shellfish Museum of Rankoshi

 

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この博物館は二枚貝をモチーフにしているらしい。まるで『すてきにへんな家』に登場しそうなデザインです。

 

すてきにへんな家 (たくさんのふしぎ傑作集)

すてきにへんな家 (たくさんのふしぎ傑作集)


実在する家も想像上の家もごちゃ混ぜにして、ただただ「へんな家」を紹介する本。

作者のタイガー立石さんはエッシャーに多大な影響を受けており、いたるところにエッシャーが好んだペンローズの三角形を描き込んでいる。

おもしろくて不思議な絵を描く、『たくさんのふしぎ』を代表する作家のひとりでしょう。

 

 

 

いきなりですが、これエッシャーっぽくないですか?

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巻貝が圧倒的な数で攻めて来る『貝の模様の多型』。

貝の模様を決定するメカニズムはいまだに解明されていないのだとか。それを示すためにこのありさま。

そういえば、9月に『エッシャーの世界』が芸術の森に来るらしい。もう今から楽しみです。

 

 

 入り口で来場者を出迎えるオオジャコガイ。

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殻だけで194kgですって……。でかい。ぱっと見は軽石みたいにカスカスな感じなんだけど。触った感じは完全に石でした。挟まれたら泣くなこれ。

 

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ドブガイ(研磨済み)の美しさよ。 

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悪口みたいな名前を付けてすまんかった…!と日本を代表して謝罪したくなるレベル。

 

 

そして『砂漠に棲むかたつむり(の殻)』をムダに動画撮影、という凡ミスを犯す。

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 採取場所なんかも丁寧に記録されています。まさか砂漠の岩の上にカタツムリがいるとは。

 

 

『流氷の天使』ことクリオネさんの図解。

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 手加減抜きの禍々しい描写!ラミネート加工済みなので気軽に手に取って眺められます。

生体も展示されていました。

 

 

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殻長5mの巨大チョッカクガイの模型。三笠の巨大アンモナイトの模型と同じ匂いを感じる。

 

 

おお!これは!!

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かつて、教会一軒に相当する価値があるとされたシンセイダカラガイ(神聖宝貝)。いまだに10万円近い価格で取引きされてるらしい。貝殻に10万円出せるってどんだけ……。

 

 

他にも、鉄の鱗を持つスケーリーフットの標本とか、中国の縦巻きカタツムリとか珍しいものが盛りだくさん。

 

 

ところで、入り口付近に3Dシアターがありまして。観てみたいなー、と聞こえよがしに話していたら、時間前にもかかわらず上映してくれました。ありがとうございます!やったねー!

 ……でもまあ1991年創設の博物館なので、最近の3Dと比べてはいけない。一応、迫り来る映像に手を伸ばしてみせるのは、観客に課せられたマナーなのかも知れません。

「貝の妖精」を名乗る3人の女の子(実写)が貝の世界をアニメ声で紹介してくれます。心してご覧ください。

 

 

書籍コーナーも貝関連のおもしろそうな本がたくさんあった。ビーチコーミングで貝殻を探そう!みたいな冊子があったんだけど、「砂浜で見つかる漂着物」として、何のためらいもなく海獣の死骸を掲載するストイックな目線にシビれる。

 

貝の標本は、中の肉を取り出すために、一度ドロドロに腐らせてから水洗いする、というのをネットで見かけました。おかげで貝殻にもしばらく強烈な腐臭がつきまとうらしい。大変そう……。アリとか、小型の昆虫がさささっと処理してくれたらいいのにね。

あ、ここの博物館は腐臭とは無縁なのでご安心ください。

 

 

さて、おみやげを探してショップを眺めていると、なんとオウムガイの殻が!!

博物館に置いてあるものは、出所とか処理の仕方にも安心感がある。ちょっと大きいけど……買っちゃおう!

 

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わーい。棚に置いた様子。

 

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 電球に被せた様子。成長線と滑らかな輪郭が強調されますね。幻想的。

 

 

 蜃気楼を吐き出すという、巨大な蛤の言い伝えがあります。

『貝の館』に飲み込まれて、ひとしきり幻でも見せられたのかも知れない、と思わせるほど不思議な造形の数々が堪能できる博物館でした。

 

また近々行きたい。解説も充実してておすすめです。

 

 

 

Bosch IXO バッテリードライバー

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Boschボッシュ)の電動ドライバー『IXO』。
 
 
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 「ドライバー」と紹介しながら、いきなりドリル刃を装備していますが、ラミーを改造したときの写真です。
 
 
この広告の雰囲気がとても好きです。アパートのチャイムひとつ取っても、たまらなくないですか?このデザイン。こんなの付いてたら、帰宅するたびにムダに鳴らしちゃいそう
ベランダに人工芝敷いてみたり、トマト缶すすったりってのもいい。
 
もろにビートルズ風味な楽曲も、シンプルなアレンジながら印象的です。
 
ピアノが紡ぐこじんまりとしたメロディから始まって、ウクレレ、タンバリン、ハンドクラップの軽快なリズムが曲を進めていく。特にウクレレの、小さな球をいくつもころころと転がすような音色は、この曲を明るく彩ります。
 
間奏明けから入って来るギターとベースは、控えめながらもマージービートには欠かせません。そして最後のサビで一気に煽ってくるオルガン。グッと来る。
 
繰り返し聴いていると、環境音(モーターの音とかグラスの音とか)も曲にしっかりとフィットしているのがわかります。
 
日本版はなぜか尺が短い上に、ミックスとアレンジもやや異なります。重心の下がった低域よりの仕上がり。そのぶんギターが目立つ。ラスサビのメロディも違う。なぜこんなバリエーション違いがあるんだろう。謎だ。
 
 
オリジナル版の方が好きだな。
 
 
さえない男とちょっと世話焼きな女の恋、というところが『エターナル・サンシャイン』とか『恋愛睡眠のすすめ』っぽい感じ(どっちもミシェル・ゴンドリー監督ですね)。
 
周りの人に見せたら、「めっちゃ少女漫画っぽい!」って感想もあれば、「これ書いたの絶対男だろ」っていう感想もあっておもしろい。
 
男からすると「なかなか踏み出せないけど仲良くなりたい、けど踏み出せない…」みたいにくすぶっているところを、ひょいと跳び越えて来てくれるのがいいんでしょうね、きっと。
 
女から見れば、男の好意は充分感じられると思うので、あとはもうそこに乗っかるだけなんじゃないでしょうか。
いや、でも、そこがけっこう頑張り所なのか……。
 
男女問わず、わりと奥手な人達が憧れるシチュエーションなのかも。
 
いつか営業部の人が、「誰でもみんな人見知りですよ。要はそこを頑張れるかどうかです!」と言っていて、「そこで頑張れる人を、人見知りとは呼ばないのでは……」と思ったことがある。
 
 
 
広告に登場するのは1世代前の『IXO4-plus』(もしかしたら『IXO4』かも)。
現行機種の『IXO5』はグリップの下に赤いタグが付いているので、見た目で簡単に判別できます。
性能的にはもちろん現行の方が優れているんだろうけど、できれば劇中で使用されているのと同じものを手に入れたい。
 
ということで、最寄りの大型ホームセンターに駆け込むと、ちょうど『4-plus』が在庫処分的に安売りされていました。やったぜ!
(↑1年ぐらい前の話です。今は現行の『5』が並んでいます)
 
家に帰って、少し充電して、空転させてみる。
モーターが鳴る。
 
憧れのミュージシャンが使っているのと同じ楽器を弾いたときのような感動がある。全くおんなじ音が出るよ!
 
 
ドイツの製品には魅力的なものが多い。
ボッシュステッドラー、ラミーなどなど。虚飾がなくていかにも工業製品らしい、こざっぱりとした佇まいがいいんだろうな。
 
 
IXOは1台あると相当便利です。インパクトドライバーほどのパワーはないものの、軽い工作程度ならドリルとしても使えるし(別売りの刃が必要ですが)。組み立て家具を作ったりバラしたりなんてお手のもの。このサイズとしては驚くほど力強い。ネジを締め切ったときの反動なんて、小型の獣を抱いたときのような感触すらある。
 
加えてあのアタッチメントの数々。ほんとに使うのかよ!って突っ込みたくなるようなアイテムもありますが(ペッパーミル、お前のことだ)、楽しそうですよね。
 
自然放電がかなり少ないので、使いたいときに電池切れ、ってこともないし。
小振りだから楽器のメンテナンス用としても使いやすいし。
 
 
おすすめポイントしかないです。
愛用してます。
 
 
 

メメントモリ・ジャーニー

亜紀書房ウェブマガジン『あき地』で連載していたメレ山メレ子さんの『メメントモリ・ジャーニー』が、遂に最終回を迎えた。
メメントモリ・ジャーニー - 新しい故郷 | ウェブマガジン「あき地」

こんなに楽しみな連載は、中学生の頃読んでた週刊少年ジャンプ以来だったので、書籍化が待ち遠しくてたまらない。書き下ろしもあるんだって。

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ウェブマガジンのいつでも読める便利さも捨てがたいが、やはり手元に置きたい。装丁とか、ブックデザイン的な部分でも楽しみです。『メメントモリ・ジャーニー』は、前作『ときめき昆虫学』の編集者が携わっているそうなので、期待せざるを得ない。

『ときめき昆虫学』の装丁もかなり好きだった。
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タイトルロゴのデザインがいいし、中央に据えられたカイコもかわいいし、表紙に散りばめられた文も妙に興味を引くものばかり(「単位おかしくないですか?」の本文中での衝撃といったらない)。巻末付録までついて、一切の出し惜しみなし。
『ときめき昆虫学』の感想なんかはこのブログの最初の記事に載せておりますので、よろしければご一読ください。

紙とか写真の質感とか、紙の本でなければ出せない魅力はたくさんある。
ふたつ歳上の兄は、買ってきた本を開く前に必ず一度、ペラリと表紙のカバーをめくっていた。なにしてんの?と訊くと、「カバーの下にオマケのイラストやメッセージなんかが書いてあったりするんだ」と教えてくれた。
『ときめき昆虫学』のカバーの内側にも、すてきなイラストが潜んでいる。

と書いてて思い出したけど、新刊に付いてる帯紙、あの帯に載ってる推薦文などのいわゆる「帯文」を収集している『帯文データベース』というサイトがあるのを最近知った。こういう活動は貴重だ。

帯も電子書籍では、ない……のかな??知らないや。技術的に載せられないワケはないだろう。ただ、ページをめくるテンポを考えると、

表紙(カバー付き帯付き)
↓めくる
表紙(カバー付き帯なし)
↓めくる
表紙(カバーなし)

なんて脱衣麻雀みたいにちまちまやってられっか!という人もいるだろうな。だから帯を省略してる電子書籍も多いんだろうな。たぶん。知らないけど。


脱線しました。


メメントモリ・ジャーニー』です。本題は。

「旅と死について考える連載」と銘打たれた旅行記なのだが、ひとことで「旅行記」とくくるのがためらわれるぐらい、内容が濃い。スプーンが立つぐらい濃い。随筆的な部分も多いし、書店ではどの棚に並ぶんだろう。
メレ山さんのブログ『メレンゲが腐るほど恋したい』で見られたハイテンションな文体は鳴りを潜め、落ち着いた語り口でより内面的な部分に触れられている。旅行の内容自体は『メレンゲ〜』や『ときめき〜』で既に語られていることも多いのだが、目線が違うというか、編集方針が違うというか。ひとつの旅行を記録した同じフィルムの中からどのコマを繋ぎ合わせるか、が違うだけで、こんなにも印象が変わるのかと思う。
とはいえ、ブログでおなじみの軽妙な言い回しや、会話のおもしろさをコンパクトに抜き出すセンスは引き継がれているし、「旅と死」をテーマに据えているわりに全体が暗くなり過ぎないのは、メレ山さんが注意深くコントロールしているからでもあるのだろう。


そんなことを考えていたら、学生時代に受けた『水曜どうでしょう』の藤村ディレクター(通称「藤村D」)の講義を思い出した。
藤村Dの話で特に印象に残っているのは、「『どうでしょう』の大泉洋のキャラクターは編集で意図的に演出している」というものだった。例えば、大泉洋さんの発する下ネタは全部カットしている。撮影現場で下ネタNGの縛りがあるわけではないのだが、「深夜番組だからといって下ネタに頼る番組作りにはしたくない」、というこだわりの編集方針だったらしい。だから大泉さんは番組には使われないものの、けっこう下ネタを連発していたらしい。
『ヨルタモリ』では終始下ネタだったもんな、大泉さんの回……。おもしろかったけど。

メレ山さんは、そんな演出がとてもうまい人だと思う。『メレンゲ〜』とツイッターと『メメントモリ・ジャーニー』では、文の調子が全然違うが、気分で変えているわけではなく、それぞれ見せる貌が違うだけなのだろう。


それだけに、明るくハイテンションな印象の『メレンゲ〜』には珍しく、「死」という言葉が出てくる記事『月桃とすばらしい日々』を読んだとき、妙に動揺した。

「これはたしかにすばらしい日々だ、(中略)こういうものを集めることで死ぬのを一日先に遅らせることはできる。」


地面に落ちた黒い影を見て、日の光の強さを実感するように、死を意識することは、同時に生きることも強く意識させる。月桃とすばらしい日々』は『メメントモリ・ジャーニー』のエピソードゼロだ。短いけど何度も読み返したくなる。

数年前に収入保障型の保険に加入してみたら、生きる意味がひとつ失せてしまった気がした。この博打は、自分が死ぬ方に賭けたのだ。勝っても負けても得を残したい、典型的な博打下手の賭け方だ。なんということだろう。


死が生を意識させるように、旅は故郷や家を想わせる。

メメントモリ・ジャーニー』には、マンションを購入する計画が登場する。
巣作りをするように、少しずつ手を入れたり、家具を探したり。マンションを好きに改装して住むのはとても楽しそうだ。
浮かされたように、とりあえず勢いで芝生みたいな緑色の絨毯を買った。部屋に敷いてみると俄然盛り上がってくる。そして今は、絨毯に似合う無垢のローテーブルを作り始めている。住処を整えることは、即ち生きて暮らすことなのかも知れない。そのへんのカフェみたいな家にしたいとは思わない。


連載の最後、ひとりで暮らす家を思い描きながら、そこで育もうとしているのは、他者との関わりだ。住処を整えるのと同じく、周りとの関わりを育むこともまた、生きて暮らすことなのだ。


って感想を書いていて、改めて、この連載すげえ……!ってなってる。「旅と死」という一風変わったテーマが、こうもしっかりまとまるとは。
今後「メメント・モリ(死を想え)」という警句は、『メメントモリ・ジャーニー』の結びの明るさと共に思い出すんだろう。
無垢材のテーブルに置かれた花瓶を照らす、5月の朝日のようです。





LAMY safari フリクション化計画

「LAMY safari ボールペン」に、消せるボールペン「PILOT フリクションボールノック」の替芯(リフィル)を突っ込めるように改造を施したので、その方法をまとめました。

 
これがサファリです。
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フリクションはこれ。
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ペン先の加工(先端編)
まず、フリクションの芯がサファリのペン先を通るか試してみると……。
つっかえて通りません。フリクションの方が太いです。
フリクションの芯の直径(先端の金属部分)はおよそ2.5mm。
目測で当たりをつけて、試しにフリクションのペン先に、2.5mmのドリルの刃をそっと差し込んでみると……。なんということでしょう、ぴったりです。
 
ジャキーン。
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まさか、フリクションの替芯は、他のペンに装填されることを期待しているのでは……?
ペン本体よりも替芯を売ることで稼ぐ作戦なのか?
 
ど素人の工作で半端なサイズに加工するのはとても面倒くさ…いや難易度が高いのです。それがこんなキリのいい数字だなんて。
他の替芯より、ちょっと太めなのもあやしい。穴を縮小するのは結構な手間ですが、拡張するだけなら簡単だもんね。
こうなると、別売りのフリクション専用消しゴム、「フリクションイレーザー」の存在もなんだか勘繰らずにはいられない。
「替芯で稼ぐ」と考えれば、フリクション本体のあの……なんというか、控えめに言って微妙なデザインも納得です。なんであんな男子小学生向けなデザインなんだろう。ちょっとスポーティー過ぎるというか……。瞬足みたいだよ。
 
個人的な趣味で言うと、ロゴの蛍光色が致命的。
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前置きはこのぐらいにして加工していきます。
 
ペン先の内側からドリルで穴を広げます。あっという間。1秒で貫通します。電動ドリルがなければ替刃だけ買ってきて、手作業でやっても大した時間はかからないはず。
 
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ペン先の加工(内側編)
さて、加工済みのペン先に芯を挿入してみると、まだ干渉するところがあります。無理に入れれば入るけど、そのあと振っても抜けないぐらいキツい。
 
サファリの芯に紙やすりを巻きつけて、ペン先の内側を少しずつ削ります。
 
ぐりぐり。
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ここには保持力を求めない方がいいでしょう。芯を差し込んだペン先が、逆さにすると落ちるぐらい、ゆるゆるにしたい。ただし、厚みに余裕がないので削り過ぎに注意してください。現物合わせでマメにサイズを確認しながら進めます。
 
 
芯の長さの調整
フリクションの芯の方が長いのでサファリの芯に合わせて短く切り詰めます。
柔らかい素材なので、鋸よりナイフでバツンとひと思いに切断するのが楽。
ちょっと長めに切って、ノックの感触を確かめながら調整すると失敗しないよ。
(↑短く切り過ぎて1度失敗した…)
 
切り過ぎた例。
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スプリング
フリクションに付いていたスプリングを使います。無加工です。らくちん。
 
 
組み込み
組み込みます。
……特になにも言うことはありません。
 
 
完成
無事完成したでしょうか。サファリをまとったフリクション。いや、フリクションを装填したサファリと言うべきか。
 
正直に申し上げると、今までフリクションが好きではありませんでした。ペン本体のデザインもさることながら、あの水っぽいうすぼんやりとした発色が嫌いで。
でも、職場ではけっこう使ってる人が多くて、試しに使ってみたらやっぱり便利なんですね。消せるから。いまさらだけど。
あと、ボールペンとしてはパッとしない発色でも、鉛筆代わりにメモ書き用として使うと見やすい。To Doリスト的なやつをフリクションの赤と青でザザッと書くと視認性抜群です。
黒は……ダメだな。薄墨みたいで辛気くさい。
 
 
ところで、仕事用としてはいちおうその価値を認めざるを得ないフリクションですが、プライベート用としてはどうでしょうか。
 
今回みたいな工作のアイディアや設計図、はたまた友達から教えてもらったおもしろ動画、おすすめ曲なんかを書き留めるために、モレスキンを使っています。ピカソが愛用したことでおなじみの、革の表紙のノート。
余談ですが、同じくピカソが愛用したというフランスのナイフ、オピネルもうちに3、4本ある。ピカソさんとは趣味が合うな。
 
モレスキンにはいままでフリクションを使っていました。消せるから便利かなーと思って。
フリクション嫌いだったのにね。
せっかく高級なノートだから、きれいに使いたいわけですよ。あんまり書き損じとか残したくなくて。ブルーブラックのインクならあの水っぽさもまだ許せる。
 
ところが、今回の改造にあたっていろいろなサイトを閲覧しまくったのですが、「フリクションで書いた文字が消えるトラブル」ってのがちらほら。「炎天下の営業車に手帳を放置したらスケジュールが全消し(笑)」とかマジで笑えねえ……。
 
 
工作やら発明やらおもしろ動画の数々を記したこのモレスキン、立派な装丁ゆえに死後も大切に保管されて残るかもしれない。だが、フリクションインクの耐久温度は60℃。これを超えるとインクの色が失われてしまう。
モレスキンが夏のクソ暑い納屋にしまわれたり、引越しの際にダンボールごと車内に放置、ということも充分考えられる。
 
そしてある日、子孫が紐解いたら白紙のノートが、ってこれもうほとんどキテレツ大百科じゃん。
 
 
やっぱりモレスキンにはふつうのペンで書くことにしよう。
 

鮮緑の城壁(イタドリを伐採する話)

イタドリの新芽をひとつ見つけたら、地中にはその10倍の芽が潜んでいる。

 
新芽の数を数えて後ろを振り返ったら、もうひとつ増えている気がする。
 
 
赤や紫の毒々しい色の新芽は摘んでもすぐ生えて来るし、摘み残した芽はあっという間にニョキニョキ伸びます。伸びたイタドリをよく研いだナイフで薙ぎ払うと、ノコノコを踏んづけたときのように小気味よくポコッと鳴る。茎の中が空洞だからだろうか。たのしい。ポコポコ切っては崖下に放り投げる。崖の下には枯れたイタドリが雪の重みでぺしゃんこに潰れて積み重なっています。去年の分だ。たぶんその下には一昨年の分。そこはきっと虫達の恰好の住処になっているんだろうな。
 
イタドリの節の中にはたまにイタドリムシと呼ばれる、コウモリガの幼虫がいる。
「節を割ると中からかわいらしいコウモリガの赤ちゃんが…。」
なんてまるで竹取物語のようですね。ていうかこれだとイタドリ物語ですね。
コウモリガの成虫は餌を摂らないらしい。もの思いに耽っているわけではないが、ちょっとかぐや姫っぽくないですか?月夜に羽ばたいて行ったりすると尚更よくないですか??
……あの地味なルックスだと無理あるかな。
 
イタドリムシは川魚を狙う釣り人に人気があり、けっこういい値段で売れるようです。1匹100円だとか。いい値段の基準は人それぞれ。まあ釣り餌として高価なのはわかるが。
とはいえいったいどこで売ればいいんだろう?国道沿いでメロンとかトウキビとか売ってるあの感じで、しれっと屋台を組めばいいのかな?「爆釣!イタドリムシ」とかのぼり立てて。
 
 
「イタドリムシ」で検索すると、トップに来るのは「イタドリムシ食べました」の記事。釣り餌情報より上って……。他にも食べた系の記事がちらほら。人の食への好奇心というのは果てしないですねー。「ざざむし。」や「野食ハンマープライス」など「いろいろ食べてみる系」のブログを読んでいると、毒がなければなんでも食えるのかなと思います。気持ちの問題なのかなー。
 
 
 
 
イタドリ自体も若いうちは食えるらしい。ウソだと思うならクックパッドで見てみてください。めくるめくイタドリレシピの数々。
 
でもあんまり食べ過ぎると体によくないらしいよ。シュウ酸がどうとかってグーグル先生が。
 
 
イタドリと格闘していると星新一さんの「繁栄の花」という話を思い出します。(思いがけず本の話に漕ぎ着けることができて驚いています)
宇宙人から贈られた花をこっそり増やしてしてしまい……。やめた。ショートショートのあらすじなんて無粋な真似はよそう。「宇宙のあいさつ」に収録されていますよ。
 

 

宇宙のあいさつ (新潮文庫)

宇宙のあいさつ (新潮文庫)

 

福島に住んでいる友達から、イタドリ対策としてヤギを飼うという話を聞いたことがあります。刈っても刈っても生えてくるので、ヤギに食わせるんだって。レンタルヤギのサービスがあるそうな。一瞬なにそれうらやましい…!ってなったけど、よく考えたらイタドリをウンコに変換する装置なんかぜんぜんうらやましくなかったわ。別にヤギ好きじゃねえし。

5、6羽ぐらいのウサギの群れが協力してイタドリを殲滅する!とかだったらかわいいのに。ウンコの処理も進んでやるのに。

 

例年、春から初夏にかけてはイタドリを刈るのにやっきになっているのですが、暑くなってくるともうまったく勝てる気がしないくらいの勢いで茂り出すので、「緑のカーテンもいいかもね…」という気持ちになり伐採を完全に諦めるのがお決まりのパターン。実際、真夏のイタドリは「緑のカーテン」などという生ぬるいレベルではなく、もはや「鮮緑の城壁」と呼んでも差し支えないくらい強固な仕上がりなので、さながらイタドリの軍門に下ったかのよう。家ごと囚われてしまうのだ。

 

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灯油タンクがイタドリに食われそうだよ。

ヒグマの本(主に慟哭の谷)

屋外からヒグマが人を食む音と悲鳴が聴こえてくる。


シャトゥーン ヒグマの森 (宝島SUGOI文庫) (宝島社文庫)
 
以前「シャトゥーン ヒグマの森」をちらっと立ち読みしたらそんな感じの描写があって、「生きながら獣に食われるのってなんかウソくせえな。こわいし」と思い本を閉じてしまいました。
なぜならその頃は、「野生の獣は獲物を苦しませることなく絶命させる」なんて与太話を信じ切っていたからです。(マジで)
あと「魚は痛みを感じない」ってのも信じてたっけ……。アホか。魚だって痛いに決まってんじゃんか!よしんば哺乳類的な痛覚がないとしてもだよ?身を切られれば切られたなりの「命に関わる大ケガの予感!!」みたいな警報が魚体を駆け巡るもんなんじゃないの?それを人は痛みと呼ぶんじゃないの?フカヒレなんて二度と食わねえからな!!……うまかったけど。うまかったことは覚えておくけど。
 
話が逸れました。
獲物との力の差が小さければ、捕食者としてもさっさと締めないとヤバいというのは想像できる。ライオンだって、獲物(ウシ科)に蹴られて大ケガとかツノが刺さって大ケガとか絶対いやだろうし。
 
逆に言うと、捕食者に身の危険がないのなら別に食う前に殺さなきゃいけない理由もありません。ひれを切り取ったサメを生きたまま海に棄てるのと同じですね。むごいー。
 
世界最悪の獣害事件と言われる「三毛別羆事件」は、この残酷な事実を否応なく突き付けてきます。人間とヒグマの圧倒的な力の差に慄くばかり。
ウィキペディアの迫力ある記述も有名ですが、現在この事件の詳細を知ることができるのは木村盛武さんの「慟哭の谷」のお陰です。
 

 

慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件 (文春文庫)

 

 
事件の生存者に直接取材しており、現場の状況や仔細なエピソードが図を交えて記されています。誰がなんて叫んだか、なんてことまで書かれてる。克明に描かれた事実の合間で木村さんの感想が語られるのですが、取材する中で感じたであろう無念さや恐れが浸み出して来るようで、読んでいて怖くなります。
 
ただ怖いというだけでは、大勢の人が亡くなったこの事件の読み方としてやや不謹慎な気もしますが、
 
ヒグマこわい。
こわいから遭遇したくない。
遭遇しないためにあいつらの習性が知りたい。
人とヒグマが出会わないウィンウィンな関係。
 
という結論が導きだせるので、ぜひぜひ大勢の人に読んでいただきたい。そしてヒグマのみなさんには、なにとぞ人里に降りてこないようにお願いしたい。うちの近所にも出るんだよ…。かんべんしてくれよ……。
読書がにがてーっていう人には、漫画版のシャトゥーンでもいいかも。ちょっとぶっ飛んでるけど、ヒグマのヤバさは充分伝わるはず。
 
 
北海道ではキツネの危険性(エキノコックスね)については、幼い頃からかなりしつこく叩き込まれるのですが、ヒグマの恐ろしさとなると、ネイティヴの道産子でもけっこう疎かな人がいる。
 
とりあえず、
・時速60kmぐらいで走れる
・火を怖がらない
・木登りも得意
・執着心がやたらつよい
・車にはねられても平気
あたりの情報は義務教育で仕込んでほしい。
 
 
ところで、木村盛武さんの別の著書(タイトル忘れた)でヒグマの陰茎骨が紹介されていて、「陰茎骨ってなにそれしらない」ってなっていろいろ調べてみたんだけど、哺乳類はけっこうみんな骨入ってるんだって。骨がない方が珍しいらしいよ。我々は仲間外れだったのだ。
 
でもまあ、もし骨折したらとか考えたらない方がしあわせな気がするよ。